ヴィクトリア女王のサファイアとダイヤモンドの宝冠にまつわる歴史
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ヴィクトリア女王(1819-1901)が彼女の最愛の夫であるアルバート公とともに、宝飾品と色石に愛情を注いだことは有名です。実際、彼女が最も大切にした愛蔵品の一つ ― サファイアとダイヤモンドの宝冠 ― は、1840年に彼女の夫がデザインし注文しました。ここでは、この美しい歴史の1ページとなった物語を紹介します。
アルバート公の生誕200周年を迎えた2019年に、ヴィクトリア女王のサファイアとダイヤモンドの宝冠がロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館で永住の地を見つけたことは、まさに運命といえるでしょう。現在、この宝冠は、改修後のウィリアム・アンド・ジュディス・ボリンジャー・ギャラリーの中心にある円筒形のキャビネットにディスプレイされ、再び輝きを放っています。
宝冠は2017年に初めてヴィクトリア&アルバート博物館が獲得したもので、ヴィクトリア女王の最も重要な宝石の1つと考えられています。それは1840年(ロイヤル・ウェディングの年)に夫のアルバート公が心を込めてデザインし、宝石商ジョセフ・キッチングが製作しました。
宝冠にはシルバーにセットしたダイヤモンドと、ゴールドにセットした八角形で子牛の頭の形をしたステップ・カットのサファイア11個がマウントされています。これは、アルバートが結婚式の前日にヴィクトリアに贈ったサファイアとダイヤモンドのブローチに合うようにデザインされていました。パリュール(一揃いのジュエリー)を女王が愛したのは、おそらくこれが始まりです。
そして同じ年に、彼女はダイヤモンドとサファイアのイヤリング、ブローチ、ブレスレットを購入しました。このことは、彼女が素晴らしいジュエリー一式をコレクションしていたことを物語っています!
宝冠のデザインは、ザクセンのラウテンクランツ(上部に葉や花冠をあしらった飾り帯)-アルバート公の紋章- に基づいています。使用されている宝石は以前ウィリアム4世とアデレード王妃がヴィクトリアに与えたジュエリーから取られたものと考えられています。
アルバート公はヴィクトリアのジュエリーに強い関心をもっていました。1843年2月の女王の日記にはこう記されています。「私たちは様々な古いジュエリーを調べ、美しい『パリュール』に加えるためにいくつかの宝石をセットしなおすのに大忙しです。アルバートはセンスがあり、私のジュエリーのためにすべてを手配してくれます」
宝冠はすぐに、1842年のフランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルターによる公式肖像画をはじめ、ヴィクトリアの初期の重要な絵画に描かれて後世に伝わっています。これらの肖像画によって、きらめく宝石は彼女の権力とステータスの象徴となりました。
アルバート公の早すぎる死の前には、ヴィクトリア女王が様々に形を変えることができる色とりどりの宝石がついたジュエリーを愛用していたことが知られています。アルバート公の死後、1866年に出席した議会の開会で彼女は重い帝国王冠の代わりにこの宝冠をかぶりました(おそらく、これは宝冠が彼女に自信をもたらしたことを示しています)。
ヴィクトリア&アルバート博物館へ宝冠が収蔵されたことに関して、シニア・キュレーターのリチャード・エッジカム氏は次のように話しています。「ヴィクトリア女王のサファイアとダイヤモンドの宝冠は、彼女の治世の重要な宝石の一つです。アルバート公によってデザインされたもので、彼らが育んだ愛の象徴であり、ヴィクトリアは若い女王として、そして未亡人としてかぶりました。ジュエラーによる傑作というこの贈り物は、ウィリアム、ジュディス・ボリンジャー、ならびに彼らの息子たちのおかげです。そして、それは博物館のアイデンティティの一部になるほど、本当の意味でヴィクトリアとアルバートを連想させるものです」
「多くのサポーターのご厚意によって80もの新しい収蔵品を獲得し貸出いただくことが可能となりました。宝冠は、皆さんに愛されているギャラリーの中心で展示され新しい時を迎えます」
すべての写真のクレジット:ヴィクトリア&アルバート・ミュージアム(V&A)のウィリアム・アンド・ジュディス・ボリンガー・ギャラリー、ジュエリー・ルーム 91-93。
この記事は、Gems&Jewellery Summer 2019 に掲載されたものです。
ヴィクトリア女王、フランツ・クサーヴァー・ヴィンターハルター(1805-73)が描いた後、フランシス・フォスター (1790-1872)による彫版、 パリ、 1846年。 紙に彫版印刷 © Victoria and Albert Museum, London.