ロンドン塔の収蔵品「クラウン・ジュエル」

 

アンドリュー・フェローズ FGA DGAが、世界で最も有名な宝石コレクションである「クラウン・ジュエル」にまつわる神話や伝説を見ていきます.

有名なクラウン・ジュエルCrown Jewels が収められているロンドン塔の基礎は、征服王ウィリアムによって1066年に築かれました。そして、代々の君主たちによって改造や修復が重ねられ、13世紀後半までには今日見られる大体のレイアウトが確立しました。ヨーロッパで唯一現存するクラウン・ジュエルは141以上の宝物で構成され、何百年もの間ロンドン塔の中で安全に保存されてきました。これらは毎年、多くの観光客を惹きつけています

このコレクションには、単に宝物の美しさを堪能する価値があるだけでなく、宝石類の背後にある魅惑的な物語と歴史について学ぶ価値もあります。

帝国王冠(インペリアル・ステート・クラウン)

帝国王冠(インペリアル・ステート・クラウン)―コレクションにおける最も有名な王位の象徴― は、即位式終了後に君主が頭上に戴くもので、議会の開会の際にも使われます。王冠には、このような重要な行事に際して、王冠自体と同じくらい凝った専用の儀式用馬車が用意されています。王冠は実に3.17kgもの重量があり、短い間のみかぶることができます。

ジョージ4世が1821年に戴冠した際、王冠の重さが理由で歯痛になったという逸話があります!王冠にはロイヤル・コレクションにおいて重要な宝石がいくつか使われており、その多くには非常に面白い物語があります。

黒太子のルビー

多くのジェモロジストがよく知っている物語の一つとして、黒太子のルビーが挙げられます。これは、最も美しい宝石であると同時に最も不吉な石といわれています。そればかりか、完全に誤った名がつけられています。ルビーと呼ばれていますが、実際は非常に大きな宝石品質のレッド・スピネルです。この宝石は、デューク・オブ・コーンウォール、プリンス・オブ・アキテーヌと呼ばれ、「黒太子」とも称される14世紀のプリンス・オブ・ウェールズであったエドワード皇太子(エドワード・オブ・ウッドストック)に贈られました。

The Imperial State Crown. Copyright Cyril Davenport. Tower of London
帝国王冠(インペリアル・ステート・クラウン). Copyright Cyril Davenport

王冠の前部のカリナンIIより上にあるクロスパティー(末広十字)についているこのスピネルには、黒い、血の歴史があります。14世紀に書かれた最初の記録によると、ムーア人の皇太子であったアブー・サイードがこの石を所有し、ペドロ残酷王が征服していた軍隊に引き渡そうとしますが、彼は休戦旗の下で待ち伏せされ、奪われたこの大きなスピネルで処刑されました。これがまさに血の軌跡の始まりです。その後、ペドロは軍事援助のための頭金としてこの石をエドワード皇太子に差し出しました。支払いの残りは宝物と宝石から成ると思われていましたが、決して支払われることはありませんでした。そして、結局、ペドロは彼の異母兄弟に待ち伏せられて刺し殺されました。

後にこの石は、1415年のアジャンクールの戦いで、ヘンリー5世のヘルメット(兜)につけられ、言い伝えによると石が彼の命を救ったとされています。斧で彼の頭が強打されたときそのヘルメットは破壊されたものの、彼を死に至らしめることはありませんでした。「ルビー」は粉砕されたヘルメットから取り出され、ヘンリー5世が亡くなるまで手元に置かれました。残念なことに、リチャード3世に関しては同じことは起きませんでした。彼もまた1485年のボズワース・フィールドの戦いのとき、「ルビー」をヘルメットにつけていました。おそらく、彼は石が身を守ってくれる、運をもたらすと思っていました。しかし、悲しいことに、彼は戦場で死んでしまいます。この同じ「ルビー」は後にチャールズ1世によって売却されるまで、ヘンリー6世とエドワード4世の王冠、ヘンリー8世(彼は石をを襟に着けていた)に使われました。そしてこの石は王室に戻りチャールズ2世の王冠に用いられ、その後ジョージ4世の即位式で使われました

聖エドワードのサファイア

また、帝国王冠の上部の十字架には、サファイアがセットされています。伝説によれば、このサファイアは、かつて証聖王エドワード(信仰のあつい英国王)の即位の指輪(コロネーション・リング)につけられていました。ある夜、エドワードがウェストミンスター寺院の前を通ると、一人の乞食に遭遇しました。彼は持っていたすべてのお金をすでに寄付してしまっていたので、深く考えずにその乞食にサファイアのついた指輪を与えました。

数年後、2人のイングランド人が聖地巡礼中、嵐に襲われました。その時1人の老人が彼らに近づいてきました。そして、2人の男がイングランド人であること、エドワードが今も国王であることを聞き、その老人は彼らに嵐の避難所を提供しました。翌朝、彼らが出発する際、老人は、自分が福音記者ヨハネであることを明かし、数年前にエドワード国王が指輪をくれたことを話しました。老人は親切のお礼に6か月後に天国で会うでしょうというメッセージとともに指輪を国王に返してほしいと彼らに託しました。2人の男がイングランドに帰国すると、エドワード国王に指輪とメッセージを渡しました。そして、国王は直ちに自らの死に備えました。国王は6ヵ月後に亡くなり、指輪をはめて埋葬されました。不思議なことに、事実、墓が12世紀に再び開けられたとき、その指輪は完全に保存された遺体の上で見つかりました。

Tower of London at night. Copyright Kjetil Bjørnsrud. Tower of London
夜のロンドン塔. Copyright Kjetil Bjørnsrud

これらの物語の一部は単に伝説であって、本当かもしれませんし、そうではないかもしれません。しかし事実として、クラウン・ジュエルの中で最も有名で世界で一番大きなダイヤモンドは、コー・イ・ヌールとカリナンであると言えるでしょう。

カリナン・ダイヤモンド

カリナンは、1905年1月26日の午後に南アフリカのプレミア鉱山で、鉱山本部長であったキャプテン・フレデリック・ウェルズによって発見されました。それは3106ctの重さ、3 7/8×2 1/4×2 5/8インチで、その日までに発見された他のどのダイヤモンドよりも2倍以上の大きさであったため、当初、彼はこの石がダイヤモンドであることに疑いをもちました。その後、石はトランスバール政府に£150,000で売却されました。そして、2年後には未カットの状態でエドワード7世の66回目の誕生日に贈られました。その規模や価値はわからなかったものの、石のカットは、大きな石をカットする経験のあるアムステルダムのI. J.アッシャー・アンド・カンパニーに依頼され、3ヵ月検討した後、ようやくカリナンはカットされることになりました。

当時、ダイヤモンドを分割する唯一の方法は劈開を利用することでした。―ダイヤモンドの弱い方向に沿って割れるように正確な方向を「打つ」方法ですが、粉砕することを避けるために、慎重に行わなければなりませんでした。そして石を慎重に劈開させた結果、9個の大きな「かけら」と96個の破片になりました。全てのカット工程が終わった後に残った重量は合計1063ctでした。

カリナンⅠ~カリナンⅨと名付けられた9個の大きな石はすべて、ロイヤル・コレクションに属しています。大きい石は、他のジュエリーにも使用できるようにセッティングが作られます。別名「アフリカの星」と呼ばれるカリナンⅠは王笏に用いられ、503ct以上の重さがあります。この石は世界最大の無色のペア・シェイプ・ダイヤモンドです。カリナン II(「アフリカの小さい星」)は、世界最大のクッション・シェイプ・ダイヤモンドで、317ctの重さがあり、帝国王冠の正面にセットされています。この石にもセッティングには2つのプラチナの輪がついており、取り外しが可能です。そしてブローチやペンダントとして単独で着けられ、またカリナン Iと共に着用することもできます。

コー・イ・ヌール・ダイヤモンド

2番目に注目に値するダイヤモンドは、皇太后の王冠にあります。これはコー・イ・ヌールと呼ばれており、「光の山」という意味をもちます。この印象的なダイヤモンドの現在の重量は105.6ctで、もともと186ctあったこの石は、1852年にヴィクトリア女王のためにリカットされました。

この石は、身に着ける女性に幸運をもたらすという伝説があります。しかし、男性には不幸がふりかかります!1739年にペルシャのナーディル・シャーがムガルを征服しましたが、統治者がもつとされるこの珍しい伝説のダイヤモンドを見つけることができませんでした。宮廷の1人が彼にこの石の在り処を話すと、シャーは祝賀会を開き、永遠の友好のしるしとして征服された指導者たちとターバンを交換することを申し出ました。なぜなら、これがコー・イ・ヌールの隠されている場所であったからです。

ダイヤモンドはその後、数十年の間しばしば持ち主が変わりました。1850年までに、コー・イ・ヌールはイングランドへ伝わり、ヴィクトリア女王へわたり、そして現在に至ります。

クラウン・ジュエルは素晴らしいイギリスの歴史がある一方で、伝説に包まれた装飾品以上の存在です。ここには多くの物語と歴史があり、訪れる人々がそれを発見するのを待っています。宝石学的、歴史的な視点でこの宝物を鑑賞するのも良いですし、決して買うことができない宝石を見るのも感動的です。ロンドンで有意義な一日を過ごす方法として、クラウン・ジュエルはお勧めです■ 

この記事はGem-Aの機関誌Gems&Jewellery Sept/Oct 2016 / Volume 25 / No. 5 pp. 14-15から引用したものです。

表紙はカリナン・ダイヤモンドの原石から分割されたカット前の9つの石を大きいものから順に並べたもの。


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