婚約指輪に使われたダイヤモンドの歴史

 

ジャック・オグデンFGAが、婚約指輪に使われていたダイヤモンドの歴史について見ていきます 。この習慣がどれほど古いものなのか、少し驚くかもしれません...

ここで皆さんに質問があります。婚約指輪に関する次の文章を読んでください。「婚約指輪に は、250から2000ドルと価格に幅があるが、現代ファッションにおいてはダイヤモンドのソリテ ール(一石のダイヤモンドを留めたリング)と定める」。これがいつ書かれたものであると思 いますか?第二次世界大戦の前でしょうか、後でしょうか?

インターネットや高級雑誌に目を通して得た情報から、1900年代中頃にデビアスがダイヤモン ドの婚約指輪を発明した、という印象を受けるかもしれません。しかし本当のところ、前出の 文章はメアリー・エリザベス・ウィルソン・シャーウッド(Mary Elizabeth Wilson Sherwood) によって書かれ、1880年代にニューヨークで出版された書籍『マナーと社会慣習(Manners and Social Usages)』から引用したものです。この時代、ダイヤモンドの婚約指輪は他にも多く見 られます。

この本が書かれた2、3年前に、南アフリカではソリテール・リングが一般的な婚約指輪である されました―イギリスでは、ダイヤモンドがセットされたジプシー・リングが好まれていました 。そして、ダイヤモンドの指輪を買うことのできない貧しい男性には、幅の広いゴールドのバ ンドが勧められました。下の写真は、1870年代のアメリカで特許が取得されたダイヤモンド・ ソリテール・リングのデザイン画です―新案特許となったのはプラチナの先端をもつ爪でした 。

1. Drawing of a diamond solitaire ring from an 1870s US patent.
1870年代のアメリカで特許が取得されたダイヤモンド・ソリティア・リングのデザイン画

ダイヤモンドの婚約指輪が使用されていた歴史をどれだけ辿ることができるかは、実のところ 、私たちが「婚約指輪」の意味をどう捉えるかによります。「婚約指輪」という言葉が最初に 使われたのは、現時点で1812年であることがわかっています。そのため、それより前の時代を 振り返り、ダイヤモンドの結婚指輪と婚約指輪について考える必要があります。

まず、宝石学に関する出版物について見ていきましょう。1652年にイギリスの初期に活躍した 宝石に関する著述家、トーマス・ニコルズ(Thomas Nichols)はダイヤモンドが魅力的という よりは、その硬度が「恒久性の意義として象徴的に使われる」と記しました。これはつまり、 デビアスがダイヤモンドは「永遠(forever)」であると最初に言った300年も前のことです。 他にも1600年代にはいくつか例があります。ミゲル・デ・セルバンテス(Miguel de Cervantes) ― ドンキホーテ(Don Quixote)で有名な ― によって1613年に発表された短編 「二人の乙女(The Two Damsels)」でダイヤモンドの指輪が登場します。

その指輪には「マルコ・アントニオは、テオドシアの夫です」という文字が彫られていたと書 かれています。数年後もう一人の有名な著述家モリエール(Molière)(本名はジャン=バティ スト・ポクラン:Jean-Baptiste Poquelin)は、ある男性がいいなずけの相手にダイヤモンドの 指輪を買おうとする場面が描かれた「強制結婚(The Forced Marriage)」という劇を書きまし た。1668年にはサミュエル・ピープス(Samuel Pepys)でさえ、ダイヤモンドがはめ込まれた 結婚指輪に言及しました。下記は、1514年のある男性がいいなずけに指輪を贈る場面を示した 画像です。残念なことに、それがどんな種類の指輪であるかは明らかでありません。しかし、 それは当時よく使われていたダイヤモンドを意図したものだったのでしょう。

2. 大切な人に指輪を贈る男性、1514年。
大切な人に指輪を贈る男性、1514年。

最初のダイヤモンド婚約指輪としてよく言われているのが、現在、ウィーンの美術史美術館 (Kunsthistorisches Museum)に収蔵されている、ベゼルが「M」の文字にかたどられた指輪で す。これはブルゴーニュ公女マリアの婚約指輪と呼ばれています―彼女は1477年にオーストリ アのマキシミリアン一世と結婚しました。これはフォトジェニックな指輪ですが、それが本当 に彼女の婚約指輪であったという証拠はありません。しかし、ダイヤモンドの指輪が結婚式に 登場したということは明らかです。

言い伝えによると、マキシミリアン公と結婚するという約束として、彼の父親にダイヤモンド の指輪を贈るよう、マリアの父親がまだ少女であった彼女に命令しました。私はそれが婚約指 輪の類のものとして花婿の父親に贈られたと考えています。おそらく、現代のダイヤモンド産 業はこの幼い花嫁の政略結婚を連想することを望んでいないでしょう。

結婚に関連したダイヤモンドの指輪の例は、他にも1400年代のイタリアに見られます。例えば 、1475年のコンスタンツォ・スフォルツァ(Constanzo Sforza)とカミラ・ダラゴーナ (Camilla D’Aragona)の結婚です。大英博物館には、ダイヤモンドがはめられたイタリア製の ゴールドの指輪があります。この指輪にはLorenzo a Lena Lenaと銘刻されています―おそらく 、ローレンツォがリーナ・リーナに愛を贈ったという意味でしょう。しかし、ダイヤモンドが セットされた初期の結婚・婚約指輪に関するすべての栄光をイタリアに譲るわけにはいきませ ん。1417年のイングランドで、ジョハンナ・ファストルフ(Johanna Fastolf)という女性が亡 くなりました。彼女の遺言書にはVous aime de tout moun coer(「心から愛しています」)と 彫られたダイヤモンドの指輪が記されていました。この銘刻により、これが彼女の結婚指輪で あったと仮定できるのではないでしょうか。

他の中世やローマ時代のダイヤモンドの指輪については、それらが結婚と関係があったかどう かを立証する方法がありません。しかし、ローマの男性が婚約者に指輪を贈る習慣があり、時 にその逆もあったことがわかっています。このような指輪は多く残っており、あるものはその デザインによって、またあるものは銘刻によってその意味を確認することができます。ローマ 時代の作家オービット(Ovid)は、機微が欠乏した二つの意味をもつ(ここに印刷するのは適 さない内容の)指輪を贈った男性について言及しています。

オービットの肖像画はありませんが、ニュルンベルク年代記(the Nuremberg Chronicle)が 1493年に出版されたとき、指輪をもつオービットの小さな挿絵がありました―おそらく、この ことでしょう。キリスト教の伝来により、すべてのことが少し儀式的になったものの、指輪は 引き続きその役割を果たしていました―ただし、それを買うことができたならばの話ですが 。300年代には、初期のキリスト教会の偉大な教父のうちの一人、ヒッポ(現在のアルジェリア 、動物のことではない)のアウグスティヌス― 後に聖アウグスティヌスとして知られる ―は 、たとえ彼らが貧しく互いに指輪を贈ることができないとしても、聖職者が二人の結婚を躊躇 してはならない、と説明しています。

3. Ovid holding a ring, from the Nuremberg Chronicle
指輪をもつオービット、ニュルンベルク年代記より

聖アウグスティヌスの1500年後、フランスの著述家が似たようなことを次のように述べていま す。驚くことに、どのくらい多くの結婚がダイヤモンドの指輪がないために中止となったかと 。しかし、ここでの意図は冷笑的なものでした―これは、男性の富は女性を惹きつける要素で あることを思い起こさせるものです。歴史は我々に役立つ宝石のマーケティング素材を提供し てくれます。と同時に、今も昔もほとんど変わらないこともある、と教えてくれるのです。

この記事は、Gems&Jewellery Sept/Oct 2016 / Volume 25 / No. 5 pp. 33より転載しています

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