三重県の真珠産業の現状

 

渥美貴史 三重県農林水産部 主査
中村雄一 (有)P・J中村インターナショナル 代表取締役

【アコヤガイの大量へい死】

三重県伊勢志摩地域は、真珠養殖産業の発祥の地(写真:英虞湾)。この地域は、長い真珠養殖の経験を持つ。この地域を含め全国的に、2019年の夏、過去に例を見ない、アコヤガイの大量へい死が発生した。稚貝のへい死率は、約71%であった。1歳貝のへい死率は約25%、2歳貝のへい死率は約22%であった。へい死発生時、衰弱した貝には外套膜の収縮が認められた。生残貝のうち外套膜萎縮の症状がみられた貝は、1歳貝で約26%、2歳貝で約19%であった(写真:貝 健康体と外套膜萎縮体)。

貝 健康体
写真:貝 健康体

貝 外套膜萎縮体
写真:貝 外套膜萎縮体

2歳貝では特に抑制した貝のへい死率、外套膜萎縮発症率がともに高い傾向にあった。抑制とは、春先から核入手術をするために、晩秋から春先にかけて、水通しの悪いプラスチック製の篭に貝を100個前後入れて、生殖腺が発達しないようにさせる作業である(写真:抑制篭)。


写真:抑制篭

このようなへい死や外套膜萎縮症がみられた原因は、現在のところ不明であるが、三重県水産研究所が過去の環境データを解析した結果、以下のことが明らかになった。2018年12月から2019年3月の水温(冬季水温)が平均15.8℃と、過去15年の平均値(13.3℃)の中で最も高かった。また、2019年4月から6月までのクロロフィル量(餌料となる植物プランクトン量の目安)が平均3.7μg/Lと、過去15年の平均値(4.5μg/L)の中で3番目に低かった。

通常、水温が低下する冬季は貝の活動が低下する。ところが、昨年の冬季の海水温は例年に比べて高く、貝の栄養消費が高くなったと推定される。特に抑制篭に収容された2歳貝は栄養蓄積レベルが低い状態になったと推測される。春になり水温上昇とともに、貝の活動が高まるため、餌が必要となるが、餌となる植物プランクトンがほとんどいない状態が3か月間続いた。したがって、貝は衰弱し、多くの貝がへい死に至り、またへい死しなくても外套膜が萎縮したと推察された。冬季の高水温と春の餌不足が大量へい死となった要因の一つと考えている。

そのため、今シーズンは、貝の大量へい死を防ぐための漁場監視体制(特に水温、餌量)を強化している。現在のところ、へい死や外套膜の萎縮症状は見られず、挿核手術が最盛期を迎えている。真珠生産は順調である(2020年5月末現在)。

 

【真珠振興の取組】  

2016年に国が真珠振興法を制定し、三重県では、2018年に三重県真珠振興計画を策定した。また2018年夏には真珠生産者、製造卸業者、地元自治体が真珠宣言に調印し、連携を強化することにした。2019年からはSDGsの達成に貢献するため、環境に配慮した持続可能な真珠養殖の実現にむけた取り組みも始めている。具体的には1.貝殻は螺鈿細工やボタンの原料に利用、2.貝肉をコンポストとして農業利用できるよう実証試験、3.真珠養殖で使用する電力を自然再生エネルギーに転換等である。さらに、真珠の魅力を伝えるため、真珠養殖場への国内外の宝飾バイヤー向け、観光客向けの2種類の体験プログラムを開発した(写真:英語リーフレット)。


写真:リーフレット

 

2017年から3年連続でGEM-A会員のツアーが企画されている。(写真:ツアー写真)。


写真:見学ツアー

 

今後も、国内外の宝飾業者、観光客に真珠の魅力を積極的に伝えていく(写真:様々な大きさのアコヤ真珠)。


写真:様々な大きさのアコヤ真珠

 

2021年度には国際宝石学会が東京で開催予定であり(執筆の後日にコロナ禍により延期が決定)、アフターコンフェレンスツアーとして志摩での養殖場見学が予定されている。最近ではCovid-19の影響で来日することが困難となっている。そこで、今後はオンラインによる真珠セミナーを行い、海外の真珠ファンを増やしていきたい。

 

【パンデミックの市場への影響】

新型コロナのパンデミックは世界中の産業に被害を与えており、真珠産業界も例外ではない。2020年2月以降、香港、ラスベガス、バーゼルなどの宝飾展示会はすべて中止された。2月から6月まで、香港や日本で通常開催されている南洋真珠やタヒチ真珠の入札会も中止された。それにもまして、世界の大都市はみなロックダウン状態に陥り、電子商取引(EC)を除いて小売販売活動が停滞している現状がある。  白蝶真珠や黒蝶真珠と違い、アコヤ真珠の浜揚げ珠入札会の大半は、このパンデミックが大きな問題となる以前の12月から2月に終わっている。 入札結果によれば、昨年に比べて平均匁単価は6.3%上昇したものの、総額は23.2%、総量は18.3%ダウンした。これは貝の大量死の影響であると簡単に推察できる。このパンデミックの終息が‶いつ?″と‶どの様に?″が不明な中では、アコヤ真珠も含めて、真珠の市場価格が今後どうなるかは誰にも解らない。このパンデミックが長引くほどに、真珠業界にはより大きな被害がもたらされることが懸念される。

 

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